わかってはいるのだ。
位の違いくらい。
違えば態度が変わるのは仕方のないこと。分かってはいる。



「だけどな、むかつくんだよ」



書類に印が押されるのを、机から少し離れたところに立っている に向かって投げつけるように言う。
「どうかされましたか?」
何も聞えなかったかのように、軽く微笑んでこちらを見てくるに、さらにいらつきが増す。
「俺の前でその喋り方、やめろ」
「と仰られましても...」
「だーかーらー!」
「無理ですよ」
相変わらず口元は笑みを残したまま、少し眉を寄せて
「私は、五席です。日番谷隊長に対して、お友達のような態度は取れません」
きっぱりと言い切る。
「雛森だって、普通にしてるじゃねえかよ」
「雛森副隊長は、日番谷隊長の幼馴染でいらっしゃいますから」
「同期だって似たようなもんだろ」
「同じではありません」
こんな押し問答をしていたって、こいつの態度は変わらないし、それは仕方のないことなのだ、と分かっているのに、いつも苛つく。
「もういい」
結局最後はこっちが拗ねて終わる。まだまだ子どもだ、と思う。
目いっぱい力を入れて印を押し、書類を離れたところに立つに向かって差し出す。
近寄ってきたが、書類を受け取るために手を伸ばす。
さっさと受け取って、さっさと自分の隊へ帰れば良い。
会わなければ、こんな苛々は感じずに済むのだから。
視線を合わせないよう、突き出した書類が見えないよう。他の書類を見る振りをして下を向く。



と、眉間にひやりとした感触を受け、視線を上げる。見上げた先には、やはり困ったように眉を寄せるの顔があった。
眉間には、の人差し指が触れている。
「んだよ」
「冬獅郎くんは」
指を当てたままで、昔の呼び名で、日番谷を呼ぶ。
「冬獅郎くんは、最近、いっつも眉間にしわ寄せてる」
「ぁあ?」
「ほら。そうやって」
日番谷は眉間に当てられた手を振り払う。久しぶりに触れた手は、ひんやりとしていた。
「前はもっと笑ってたのに」
「へらへら笑って仕事なんてできねぇだろが」
そう言っての顔を見上げる自分の顔は、きっとさっきよりも酷く眉間にしわを寄せているに違いない。
さっきまで困ったように笑っていたが、昔のような顔で笑っていた。
「私は、笑った冬獅郎くんが好きだよ」
手のひらから書類が落ちる。
それを机に着くよりも先に拾い上げ、は印を確認する。
「ありがとうございます、日番谷隊長」
呼び名は元に戻っている。
けれど、表情はさっきまでの困った顔ではなく、あの頃と同じ笑顔で。
それでもまぁいいか、諦めとは違う感覚がふと訪れ、日番谷は笑った。

「お前も早く副隊長くらいにはなれよ。そしたら、みんなの前で俺のこと、名前で呼んでもいいぜ」

それでは、と戸を開けようとしていたが振り返り、声は出さずに「ば〜か」と口を動かす。
早くその日が来れば良い。
日番谷はにっと笑って、照れたような顔をして部屋を出るに手を振った。