うわぁ。なんて可愛いんだろう。 私はこみ上げてくる笑いをこらえて、横に座る頭をぐっと抱きしめた。 「ぅわぁあああああ!!」 私の胸の中で、信長が大きな声を出す。 手があわあわと動いているけれど、私は構わず信長の髪に頬をくっつけた。 あったかいお日様の匂いがする。 遠くの方でシャンプーの匂いもする。 少し硬めの髪の毛が、頬を軽く刺すのも、少し汗ばんだ温もりも。とっても愛しいなぁ、と思う。本当になんてこの子は可愛いんだろう。 「先輩!先輩!ちょ、待って!なんすか!」 「信長、可愛い!」 「なんすかそれは!」 少し腕を緩めると、真っ赤な顔をした信長と目が合う。あぁ、その真っ赤な顔も可愛い。 「信長、顔真っ赤だよ」 頬に触れると、慌ててその手を振り払う。 大丈夫だって、誰もいないから。 私はまた口元が大きく緩むのを感じる。 「先輩は、いっつもやることが突然なんすよ」 頬を真っ赤にして、ふてくされたような顔で信長が目を逸らす。私は声を立てて笑う。可愛いんだから、ほんとに。 「だって、ほんとに可愛いんだもん、信長」 「可愛いとか言われても、嬉しくないっすよ」 「好きな子の話してる信長、超可愛い」 さっき、信長が好きな女の子がいる、という打ち明け話を私にした。 マネージャーになってから、部員のそういう打ち明け話は意外に聞いている。私がみんなのことを対象外だと思っているように、みんなからも私が対象外になっているから。一番近い異性、というポジションは結構楽しい。恋心を含まない男女関係は、実はありえる、と思う。 そんな私に、信長が自分の恋話をした。 あの信長が。 いつもバスケのことしか考えていないような信長が、照れた顔をして、「誰にも言わないでくださいね」と念を押して、話し出したときの私のこの興奮を、みんなに分けてあげたい。 この子にもついに! なんて、お前は母親か、みたいな興奮。それでいてちょっと寂しいような、そんな思い。信長に恋してるわけじゃないけれど、巣立っていく子どもを見るのは、お母さん、誇らしいけれど少し寂しいです。 「そっかぁ、信長にも好きな子が出来たかぁ」 私は膝を抱えて、信長の顔を見た。そむけていた顔をこっちに向けて、てへ、と笑う顔がまたとても愛しいと思う。 「神さんとかに、絶対に言わないでくださいよ」 「うん。黙ってる」 けど、そのうちばれると思うよ、信長、顔にすぐ出るから。 「牧さんにも言わないでくださいよ。たるんでるとか言いかねないから」 「うん、大丈夫」 けど、牧も好きな女の子の相談してきたことあるから、大丈夫だよ。 「大丈夫だよ、人に言ったりしないから」 それが今まで築き上げてきた私のマネージャーとしての信頼ですよ? 何人の恋愛相談受けてきたと思ってるの。 「うまくいくといいね、ノブ。応援するからね」 私は笑って信長の顔を覗き込んだ。 信長も、にかっと笑って私の顔を見た。 この子の恋がうまくいきますように。 信長の髪の毛をわしゃわしゃと撫でながら、私は心の中で願った。 |