綺麗な青空だと思った。

久しぶりの良い天気で、渡り廊下を歩くのも気分が良い。
たとえ両手一杯の資料を抱えていたとしても。
足元は見づらいし、だからゆっくり歩かないといけないけれど、こんなに良い天気を横目に歩けるのなら、ゆっくりの方が得だ。
少しだけ吹いている風が、ゆっくり髪を撫でる。


「なにのんびり歩いてんだ」

立ち止まって前を見れば、相変わらず愛想のない顔して彼が立っていた。
「今日は良い天気だな、って思って」
思わず口元が綻ぶのが分かる。
ほんと、そういうところは心よりも体の方が素直だ。
「あー、そうだな、久しぶりに晴れたな」
廊下から少し体を乗り出して外を眺めて、またこちらに視線を戻す。
「で?」
「で?」
軽く首を傾げると、
「その書類、なんだって聞いてんの」
私の両手を塞いでいる書類を、顎で指す。
「隊長がね、必要だから持ってきてくれって」
よいしょ、と持ち直した。足元は見えないけれど、上にある彼の顔なら良く見える。
「誰が読むんだっての、そんな量」
げっそりとした顔を作って、はぁ、と小さくため息をついているのを笑って見ていると、すぐ目の前まで来た彼が私の両手から書類を取り上げる。
ごく自然に、当たり前のように。
そういうさりげなく優しいところを見せられるたびに、胸の奥が大きく跳ね上がる。
みんなにしてることだから、特別じゃないから。
言い聞かせようと思っても、嬉しく思う気持ちがいつも勝ってしまう。
だからほら、さっきよりも口元が喜びで綻びていく。
「ありがとう」
きっと満面の笑み、っていうのは今の私のことだ。
そんな私を見下ろす彼の口元も、口角が少し上がっている。
私の大好きな顔。
「俺が持ってってやるから、お前読めな」
「隊長が私で良いって言ったらね」
「誰が読んだって同じだろ」
「檜佐木くんが読んでるときの声、好きなんだけどなぁ」
思わず零れてしまったつぶやきは、きっちり聞こえたらしく、上がっていた口角が下がって、
「褒めても何にも出ねーぞ」
不機嫌そうな声は、けれど少し赤くなった顔で照れ隠しだって分かる。
「ほら、隊長待ってんだろ。行くぞ」
口角は下がったままだけど隣に並ぶまで歩かずに待ってくれる彼を見上げて、「うん」と頷いたら、なぜかまた彼の顔が少し赤くなって、ちょっと口角が上がった。
やっぱりその顔が大好き。