前から大量の書類を抱えたちいさいのが歩いてくるのが見えた。
時折窓の外を眺めながら、のんびりと歩いている。
つられてちらり、と窓の外に目をやってから、

「なにのんびり歩いてんだ」

声をかければ、にこりと笑って立ち止まる。
「今日は良い天気だな、って思って」
その顔のまま外へと目をやるのにつられて、体を乗り出して空を見上げる。
向かいの屋根に、赤い頭が見えた気がした。
あのやろ、あんなとこでサボりか。
少し眉を寄せてから、また彼女の方へと向いた。
「で?」
なにをそんなに抱えてるんだ、と言うつもりでそれだけ言うと、
「で?」
鸚鵡のように繰り返して、首をかしげた。
「その書類、なんだって聞いてんの」
顎で手元を指し示すと、指先が疲れてきたのか、抱えていた書類を持ち直している。
あんな細くて短い腕じゃ、あの量の書類を持っているのはきっとしんどい。どうせ戻るついでだから、持ってやろうと思って近づいた。
「隊長がね、必要だから持ってきてくれって」
手を伸ばす前に、思わずため息が出る。
「誰が読むんだっての、そんな量」
戻ったら、全てに目を通して、どこが必要なのかを選別しながら隊長にそれを知らせなければならない。
別な仕事がまた増えたことにげっそりした気分になりつつも、彼女の手から書類を取り上げる。
「ありがとう」
満面の笑みで見上げる顔は、いつ見ても特別に見える。
普段の彼女はなんてことはないはずなのに。
思わず口元が緩むのを気付かれたくなくて、
「俺が持ってってやるから、お前読めな」
口調がいつもより雑になる。
「隊長が私で良いって言ったらね」
「誰が読んだって同じだろ」
相変わらず笑顔で見上げている彼女を見下ろしていたら、
「檜佐木くんが読んでるときの声、好きなんだけどなぁ」
小さいけれど、はっきりとそれは耳をくすぐる。
「好き」という言葉だけが、胸の奥に響いた。
彼女の言っているのは声だけだ、言い聞かせても照れくさいのは隠せない。
「褒めても何にも出ねーぞ」
不機嫌な声が出るけれど、そんなことは気にしていないような顔で、彼女は笑っている。
「ほら、隊長待ってんだろ。行くぞ」
彼女が隣に並ぶのを待っていると、ぱたぱたと走りよってきて、こちらの顔を見上げてきた。

あー、ほんと、その笑顔には弱いんだ。

認めてしまったら、口元が緩むのも抑えられなくて、つられて笑った。