授業に出るのが面倒で屋上で昼寝をしていたら、気付いたら日が暮れて空が茜色だった。


(いくらなんでも、授業全部終わったなぁ)


のそりと起き上がると、肩から何かが落ちて足にかかった。
それは誰かの学ランで、校章から同じクラスの誰かのものだと言うことは分かった。
名前でも書いていないかと抱えなおすと、

(あ、煙草のにおいがする)

鼻先に近づけて、匂いをかぐ。
どっちだろ、匂いじゃわかんないや。
煙草を吸っている二人の顔を思い浮かべる。
先生だったら白衣だから、あの二人のどちらかだろう。
胸元のタグを見てみても名前なんて書いてあるわけもなく、結局持ち主が分からないまま、私はその学ランを羽織って屋上を後にした。

というか。
「まじで煙草くさい」
「なら着んな」
うぉお! 大げさにびっくりして振り返ると、銜え煙草の高杉が立っていた。
「なんだそのビビリ方は」
口元を歪めて高杉が笑った。
「あ、これ高杉の?」
「だから脱げ」
ほら、と手を出す高杉の手をわざと握る。
「なんだよ」
「握手?」
「離せ」
「やだ」
むっとした顔で、高杉が手を引っ込めようとする。
私は両手で高杉の手を握る。
「ねぇ、なんでかけてくれたの?」
下から顔を覗き込むようにして見上げると、高杉はふい、と視線を逸らす。
「しらねぇよ」
「ふ〜ん」
私はぱっと手を離すと、きびすを返して階段をまた昇る。
「おいこら」
後ろから足音がついてくる。
「さっさと脱げよ」
「やだ。ていうか、なんでかけたのか知らないんだから、これ高杉のじゃないでしょ?」
「俺んだって言ってんだろが」
「違うよきっと」
「かけた俺が言ってんだから俺んだ」
「土方のだよ。煙草くさいし」
両袖を口元にあてて、また匂いをかぐ。煙草くさいなぁ。
後ろで舌打ちが聞こえて、足音が遠ざかる。
私は階段の途中で、振り返りもせずに小さく笑った。

煙草のにおいの向こうに、ちゃんと高杉のにおいがしてるのも、分かってる。
でも、もうしばらくこれ着たまま過ごして、それから高杉を探しに行こう。

だって、好きな人の学ランを着られるチャンスなんて、そうそうあるもんじゃないでしょ。