人になにかをあげるのって、選ぶところが楽しかったりもするけれど、やっぱり喜んでくれればあげたときが一番嬉しい。
特に信長は、表情に出して、身振り手振りもつけて喜んでくれるから、あげ甲斐があるってものだ。
好きな子からはもらえなかったみたいだけれど、話を聞く限りだと、うまいこといきそうな気もするので、先輩としては「もう少しだ!頑張れ!」くらいしか言えない。
今日はバレンタイン当日。
まだまだ街中はバレンタイン色で、義理チョコを大量に買っていくOLさんもいる。
義理チョコ。
そういえば、部活のみんなも義理だって分かっていても、笑顔で「ありがとう」って言ってくれるから、毎年あげるのが楽しみだったな。
なのに、牧は、
「悪いな、全員分用意するのは大変だろう」
って、少し済まなさそうな顔をしてた。
「用意する楽しさってのもあるから」
って笑っても、疑ってるみたいな顔をしてたけれど。
楽しかったんだよ、毎年。
来年からはあげられないのが、本当に寂しいくらいに。


せっかくのバレンタインだし、自分用に美味しいチョコレートでも買おうかな。
駅に向かっていた足を、デパートに変えようと踵を返したとき、名前を呼ばれた。
視線を声の方に向ければ、牧が近づいてくるところだった。
「学校行ってたのか」
「うん、そう。牧は?」
「俺はちょっと買い物頼まれて」
見れば、手にはデパートの紙袋やビニール袋が下がっている。
ちょっと似合わないその姿に、思わず笑ってしまった。
「なに笑ってんだよ」
「いや、牧にしては可愛いお店の袋だなぁ、と思って」
「親に頼まれてな。俺の買い物じゃない」
「うん、そうであることを願うけど」
まだたぶんにやにやした顔で笑う私を持て余したように、牧は、ふぅ、と大きくため息をつく。
手にした袋をよく見れば、とりあえず生ものやすぐに冷蔵庫行きのものはなさそうで。

今日はバレンタイン。
ここで会ったのも何かの縁、というわけで。
それに、自分用に買うよりも、誰かにあげた方が建設的ではないかと、思うわけで。

「ねぇ牧。まだ時間大丈夫?」
「あぁ、あとは帰るだけだからな」
「じゃあさ、あそこでお茶しよ」
私が指差したのは、ときどき友達と寄るカフェ。
今日はバレンタインだから、
「私が牧にケーキをご馳走しちゃう」
チョコレート限定だけどね。
ちっとも意味がわかってなさそうな牧が、「自分で払う」とかなんとか言ってるけど、それは無視して、私はお店へ歩き出した。
今年最後にチョコをあげる相手が、牧でよかったな、なんて思いながら。
どうか今年は、嬉しそうな顔をしてくれますように。