寒くなればなるほど、夜の帰り道が好きになる。
そう言ったら、学ランの上にマフラーをぐるぐる巻いた仙道が、嫌そうな顔をした。

「寒いだけじゃん」

ポケットに両手を突っ込んで、少し背中を丸めて、いかにも寒いです、といった感。
部活帰りの肩には、大きなスポーツバッグがかかっている。
私も同じようにぐるぐるとマフラーを巻いているけれど、手袋をしているから手はちゃんと外に出ている。
部活帰りだけれど、カバンは仙道の半分くらいのサイズ。
まぁ、体のサイズを考えれば、これがちょうどいいんだけど。

「だって、ほら、冬の方が星がよく見えるんだよ」

見上げれば、今日もまた星がよく見える。
「星ぃ?」
だるそうに背中を丸めたまま、仙道が上を向く。
私は夜空を見上げたまま、両腕を上に向けて伸ばした。
「ね、すごいでしょ。なんか、届きそうな気がしない?」
「いやいや、無理だろ、その身長じゃ」
「えー」
それでも私は、両手を空に差し伸べる。
本当に届きそうな気がするんだけど。
それくらい、冬の夜空は澄んでいて、星が綺麗に見える。
「星座とか詳しいの?」
「全然。わかんないけど、見てるの好き」
私が立ち止まったせいか、仙道も一緒に立ち止まる。
歩道で二人、顔を真上に向けて星を眺める。
「あー、でも、はっきり見えるんだな」
「でしょ」
「うん。すげぇな」
「でしょ。取れそうだよね」
「いやいや、無理だろ」
「仙道ならいける」
「マジかよ」
さみぃ、とか言いつつ、仙道はポケットから手を出して、空に向けて伸ばした。
くだらない私のお遊びに付き合ってくれる仙道は、いいやつだと思う。
私の手よりもずっと上に向かって伸びるその手は、本当に星にも届きそうな気がする。
「お」
手を伸ばしていた仙道が、少し驚いたような顔をして、こっちを見下ろした。
「なに」
「取れた」
「うそ!」
空に向けて伸ばしていた手のひらが、気付くと握り締められている。
「ほんと。俺、すごいな」
ニッと笑って、握り締めた手のひらが、私の前でゆっくり開いた。

「ほら、星」

出てきたのは、星の形のキャンディー。
「すごい、いつの間にそんな仕込みを!」
「仕込みとか言うなよ、夢がないなぁ」
ポケットに入れっぱなしにしていた手を出して、仙道が私の手首を手袋ごと掴む。
そうして上を向かされた私の手のひらに、星がひとつ、落ちてきた。

「お姫様の望みとあらば、星だって取れるってことだよ」



目の前で王子様が笑った、気がした。