目の前で散る赤い血を、今でもまだ思い出す。
目の前で倒れる姿を、今でもまだ夢に見る。
抱き起こしたときに手についた生温い血の感触も、溢れるように流れる血で赤く染まる死覇装の色も、反対にどんどん白くなっていく頬の色も、それでも「大丈夫」と繰り返す弱弱しい声も、昨日のことのように覚えている。
言ったら、怒るのだろうけれど、俺は今でもまだあの時を引き摺っているし、きっと一生忘れられない。



「檜佐木くん」

実習に出かけていく院生を見るともなしに見ていた。
見ていると、あの頃の楽しかった思い出よりも、嫌なことばかりを思い出す。
目の前で血を流したやつのことや、大虚に殺された仲間を。
あの頃の自分は、今よりも格段力がなかったし、助けられなくても仕方がなかった。
誰もが口を揃えて俺を慰め、事実そうだったと自分でも思っている。
けれど、今なら誰も死なせることもないのに、と、戻らない過去を悔やむこともある。
悔やんでも、時は戻らないのだけれど。

「檜佐木くん!」

背中をどやされて、ようやく振り返ると、に、と笑ってが立っていた。
「どうしたの」
並んで俺の視線の先に目をやり、「あぁ、」と小さく頷いた。
「実習だね。初めてなのかな、緊張した顔してる」
そっと並んだ顔を盗み見れば、当時を思い出しているのか、口元が少し嬉しそうに上がっている。
「緊張するよねー。失敗したらどうしようとかさ。檜佐木くんは最初から出来たから、そんな心配、したことないでしょ」
「んなわけねぇだろ。普通に緊張したよ」
そう、最初だけは。
その後は、意外にちょろいと思った。
先輩たちが引率したけれど、学年が5つも離れていたところで、自分よりも頼りないと思うことの方が多かったくらいだ。
自分が頼りない、と思ったのは、仲間を二人失ったときと、そして、卒業前の最後の実習の時だけ。
「ほんとかなぁ」
のんきに笑うその顔から、目を逸らした。
笑うその顔の下、死覇装に隠れた右肩の辺りに、大きく一筋の傷があるはずだ。
俺がつけた傷。
正確に言えば、俺のせいでついた傷。
卒業前の最後の実習で、ついた傷。
あの日から、俺はの目を見て話が出来ないし、なのにこうして隣に並ぶことを嫌とは思えない。
同じ隊になったときは、嬉しいとすら思った。
けれど、一緒に組めと言われれば、戸惑い、時には断りもした。
また同じようなことが起きたら。
目の前で、またが倒れるようなことがあったら。
そんな恐怖心を抱いたまま、戦うようなことはしたくなかった。
死神なんかやっていれば、いつか戦いの中で命を落とすだろう。それはきっと宿命とも呼べる、逃げられない終焉だ。
ただ、のそれを、自分が見届けるようなことはしたくなかった。
「俺、戻るわ」
まだ後輩たちを眺めているにそれだけ言うと、背中を向けた。







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