いつも変わらない笑顔で見上げてくるその顔を、いつかまっすぐ受け止めて、同じように笑えるようになるだろうか。 目の前で、阿散井と吉良が学院時代の同級生の話をしながら、杯を重ねている。 それを聞き流しながら、ゆっくりと杯を空け、小さくため息をついた。 この二人の実習を引率して以来、時々こうして一緒に飲みに行くようになった。 別段仲良くしているわけではないし、可愛がってやっているわけでもない。 なのに、ことある毎に誘いに来るのは、偏に俺の財布が目当てじゃないだろうか、と踏んでいる。 だから、ほとんど断り、都合が合えば誘いに乗ってやってはいる。こちとら、ヒラ隊員ほど暇ではないのだから。 ぼんやりとしていた耳に、「やっぱりあの二人」やら、「ダメか」という単語がぽつりぽつりと入ってくる。いまさら話に入るのも面倒で、空になっていた杯のふちギリギリまで酒を注いだ。 いつまで自分たちの不安定な関係を続けられるだろうか。 自分のぎこちなさは、間違いなくも気付いていて、それでも知らない振りをして笑ってくれる。 何もなかったかのように隣へ並んで、変わらず話してくれる。 それも、いつまで続くだろうか。 もう何年もそうやって過ごしてきた。 歪なのは分かっているのに、向こうは気にしていない、と言うのに。 いつまでも引き摺っているのは俺だ。 「まぁ男の方がいつまでもうだうだ引き摺ってたからなぁ」 阿散井の声に、思わず顔を上げてしまった。 自分のことを言われたような気がした。 「なにが」 少しだけきつく出てしまった言葉に、阿散井が怪訝そうな顔をして、 「あー、俺らの同期で付き合ってたのがいたんすけどね、別れたんですよ」 簡単に説明をしてくれる。 補足するように、向かいに座っている吉良が、 「二人とも同じ隊だったんですけれど、一緒に行った先で、彼女が怪我して、それ以来うまく行かなくなったみたいで」 言いながら、少し減った俺の杯をまた満たした。 「彼女の方は気にしてなかったみたいなんですけどね、男の方が庇えなかった、ってずっと気にしてて」 「体見るたびに、傷跡が見えちゃなぁ」 阿散井がくい、と杯を空けた。 「けど、綺麗に治るって話だったじゃないか。彼女も気にしてなかったみたいだし」 「時間かかりすぎんだよ。その前に気が滅入る」 ねぇ、と阿散井がこっちを見る。 さっき吉良が満たしたまま、ちっとも減っていなかった杯を唇に当てて、一口流し込んだ。 「そうだな」 気が滅入る、というよりも、罪悪感だろうけれど。 それは口にはしなかった。 いっそ、離れてしまえば良かったのかもしれない、といまさら初めてそう思った。 |
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